昭和歌謡曲の万華(まんが)

松原みき、大橋純子、原田真二で聴くサックス

キツいけど、それでも歩き出す時にサックスを!

ピアノやバイオリンが楽曲に与えるイメージは

よく分かるけど、サックスはちょっと分からない。

そんな風に思ってる人にお届けしたいのが

♪『真夜中のドア』松原みき

♫『たそがれマイ・ラブ』大橋純子

『シャードー・ボクサー』原田真二

の3曲です。サックスは高音域、低音域、

いずれの音色でも、リスナーに

再び歩き出せそうな後押しともいうべき

何かしらのエネルギーを与えてくれます。

それは他の楽器でもそうなのですが、

サックスの音色には、

完敗という絶望感を許さない何かを感じます。

今、自分がキツい状況なのは分かっているし、

自分が追い詰められているという事実も

認めたくはないけれど分かっている…。

でも、もういい加減に進まなきゃ。

でも、どうやって進めばいい?。

「分かんないけど、やっぱオレ、もう行くわ」

「成り行きに任せるしかないな、アタシ…」

事態が好転する確信なんて

どう転んでも持てっこない状況。

なのに、完璧なまでの絶望感には浸れない。

「アタシって楽天家なのかな」

「オレって、なんも考えず進んでくからか?」

悲観するのは良くない。

落ち込んでも仕方がない。

いつまでも、くよくよしてないで。

そんな声は聞き飽きてるのかもよ。

ドラマの中でさんざ云ってるって、

そのセリフ。

好きなだけ、悲観的をやってみればいいよ。

いつまでもクヨクヨウジウジしていようよ。

そんなのすぐ飽きちゃうからね。

ほら、バイキングで好きなだけ食べ放題って、

徹底的に食ってやる!って突撃してくけど

結局、お腹に入ったのはいつもの量のせいぜい倍。

だから、もっとスネてグズッてたいけど

「アレ、なんだオレ立っちゃったぜ」

「アレ?、アタシ、始めちゃった?」

になるのかもだよ。

真夜中のドア / 松原みき〈作詞:三浦徳子 作曲:林哲司〉

♪ 真夜中のドアをたたき 帰らないでと泣いた

つまり、自宅の中。ドアの外に出てしまった

彼に向かって、彼女はドアごしに帰らないでと

泣いた。ドアを開けて、彼の後ろ姿にしがみつき

帰らないでと訴えたのではない。つまり、

彼を追わなかった。追いかけなかった。

どうして?。

どうしてだろう。彼女、本人にも

もしかしたら分からないかもしれないよ。

別の日なら違ったかもしれない、ただ

あの夜はそうだったの、って

そう答えるかもしれないしね。

真夜中の入口が開く時、彼が尋ねてくる。

真夜中の闇に消え去ろうとする彼に

追いすがらず、

ドアをたたき泣く彼女は、

やはり真夜中の闇の中で

彼と相対してはいない。

なぜって、目の前に彼が居るのなら

ドアをたたく必要はないから。

二人の間には歴然と

目に見えない境界が、ドアが在った。

恋と愛とは違うものだって彼は云う。

理論的な男のいいそうな言葉。

そんな気もする、と彼女。

まともに聞いてない。

そんなことに何の意味があるのか。

女性のこみ上げる思いは

男性の理屈をねじ伏せる。

だまされない。

真夜中のドアをたたき泣き崩れたあの夜。

その日が再びめぐってきた。

私の気持ちはあの夜のまま、

同じメロディーを繰り返すだけ。

「だよね」「だよな」とでも交わした?。

そんな口癖を言い合っていたふたり。

♪まだ忘れず 暖めていた

という彼女。終わった実感がないの?。

まだ分からないの?。彼女の周囲からの声。

終わりを告げる物悲しい音ではない。

希望を見出せる音でもない。ただ、

アタシを、オレを、

「抜け殻にはさせない音なんだよな」

「終わってもいないし、

始めることも出来ないけど、

今のアタシを支えてくれる音だよ」

そう、それがサックスの音色。

真夜中のドア。

物語のエンディングを飾る楽曲、

その終わりに流れる、

その音。

たそがれマイ・ラブ / 大橋純子〈作詞:阿久悠 作曲:筒美京平〉

ある日突然、予期せぬ事態が起きる。

人それぞれに。昨日とはまるで違う今日。

理解出来ず、ただ茫然と立ち尽くすだけ。

♪ 今は夏 そばにあなたの匂い

しあわせな夢に おぼれていたけれど

夕立が 白い稲妻連れて

悲しみ色の 日暮れにしていった

〈以上、歌詞〉

引き裂かれ、

かけらになってしまった彼女の愛。

それなのに、彼女はまだ、彼女はもう、

愛しい彼の背中にもたれかかる夢を

見始めている。

二人の関係がどうでこうで、だからもう

二度とやりなおせないよ。

そんな理屈など、彼女には何の重みもない。

まだ終わってはいない。

始められないというのなら

そうなのかも。

でもね、だからといって

終わったとは言えないでしょう?。

楽曲のエンディングを飾るサックスの音色。

真夜中のドア。それと同じ音色。

それは、もしかしたら

錯覚の勇気づけなのかもしれないけれど、

オレには

アタシには

必要なんだよね。

シャドー・ボクサー / 原田真二〈作詞:松本隆 作曲:原田真二〉

♪ 淋しさに打たれ ダウンした夜は

君がいてやさしく 包んでくれたよ

と、彼はつぶやく。

知らなかった。

いつも女は天使と悪魔のどちらにもなれる。

意外な盲点だった、といえば

女性達から含み笑いが聴こえてくる。

「男だけだと思ったの?、ぼうや」

ラブソングばかり歌っていた夢見る女性。

それが彼の恋人だったひと。

彼女が歌を忘れたカナリヤに

なってしまったのは、どうして??。

彼は、不思議なことに

彼女の泣き顔ばかり思い出すという。

彼女の悲しみに無頓着だった男が

ある日突如、ふいにたどりつく事実。

後悔。

大切なものをないがしろにしてしまった。

自分の影をなぐる男のシャドーボクシング。

浮上するサックスの音色は

リングに彼を倒さないための音色。

だってまだ、

人生は始まったばかりだから。

注:サックス演奏部分を視聴するには

3曲ともレコード音源を選択してください。